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大阪地方裁判所 昭和36年(行)75号 判決 1965年2月16日

原告 上嶋産業株式会社

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 叶和夫 外三名

主文

裁告が昭和三六年七月二六日付でした原告の昭和三二年八月一日から昭和三三年七月三一日までの事業年度分の法人税課税決定審査決定中、所得金額九六〇、一九一円、法人税額三一六、八三〇円を超えて決定した部分を取消す。

原告の右事業年度分の審査決定に対するその余の部分の取消を求める請求並びに昭和三三年八月一日から昭和三四年七月三一日までの事業年度分の審査決定の取消を求める請求を全部棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立。

(原告)

被告が昭和三六年七月二六日付大局直法(審)第五八八号大協第一七四号審査決定通知書を以てなした原告に対する法人税課税決定審査決定(自昭和三二年八月一日至昭和三三年七月三一日事業年度分の所得金額九六一、三〇〇円、法人税額三一七、二二〇円並びに自昭和三三年八月一日至昭和三四年七月三一日事業年度分の所得金額九五三、九〇〇円、法人税題三一四、七八〇円、重加算税額一五三、〇〇〇円とする決定)を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の事実上並びに法律上の主張。

(原告の請求原因)

一、原告会社は一般製材を業としている株式会社であり、毎年八月一日から翌七月三一日迄を一事業年度としているところ、

(一) 昭和三二年八月一日から昭和三三年七月三一日迄の事業年度(以下第三期事業年度という)分の法人税の確定申告を所轄奈良税務署長に対し昭和三三年九月三〇日に、次損金額五二、二一五円、決人税額零と申告し、

(二) 昭和三三年八月一日から昭和三四年七月三一日迄の事業年度(以下第四期事業年度という)分の法人税の確定申告を、同署長に対し昭和三四年九月三〇日に、所得金額一五、七〇〇円、法人税額五、一八〇円と申告し

たところ、同署長は、

(一) 第三期事業年度の分につき昭和三四年三月三一日、所得金額を零とする更正決定をし、さらに同三五年一〇月三一日、所得金額を一、二七二、二〇〇円、法人税額四一九、八二〇円、重加算税額一九四、五〇〇円とする再更正決定をし

(二) 第四期事業年度の分につき昭和三五年一〇月三一日所得

金額を一、一一一、六〇〇円、法人税額を三六六、八二〇円重加算税額一五三、〇〇〇円とする更正決定をし

た上、翌同年一一月一日それぞれこれらを原若に通知した。

二、原告は、右奈良税務署長の再正更決定(第三期事業年度分)並びに更正決定(第四期事業年度分)を不服として、同年一一月二四日同署長に対し再調査請求をしたところ、同署長は同年一二月五日これを棄却する決定をし、翌同月六日原告に通知したので原告は同月二六日被告に対し審査の請求をした。

三、被告は、昭和三六年七月二六日、原処分を一部取消し、

(一) 第三期事業年度分については、所得金額を九六一、三〇〇円、法人税額を三一七、二二〇円、

(二) 第四期事業年度分については、所得金額を九五三、九〇〇円、法人税額を三一四、七八〇円、重加算税額を一五三、〇〇〇円

とする請求趣旨記載の審査決定をして、同年八月一日原告に通知した。なお奈良税務署長は右第三期事業年分につき重加算税賦課決定の取消されたことに伴い、更に過少申告加算税一五、八五〇円の徴収決定をして同年九月八日原告に通知した。

四、然し乍ら、原告の第三、及び第四期事業年度における所得は別紙記載のとおり、第三期事業年度においては欠損金五二、二一五円、第四期事業年度においては金一五、七七七円であつて、被告の審査決定は原告の所得を過大に認定した違法があるのでその取消を求める。

(被告の答弁と主張)

一、請求原因一乃至三の事実は認め、四の主張を争う

二、被告審査決定の根拠。

(一) 奈良税務署長が原告の第四期事業年度の申告に接し、その適否を調査したところ、(イ)原告会社は現金の管理が不充分で、帳簿の記帳はすべて訴外谷口税理士に委せており、会社の帳簿は正規の簿記の原則に従つておらず企業の実態を正確に反映しているものとは認められず、(ロ)仕入、売上等の内容について検討したところ、帳簿書類が完全に保管されでおらず、仕入代金の支払状況並びに資金繰りについても疑点があり、(ハ)昭和三二年四月一六日、南都銀行南支店に開設された島村末治名義の預金口座は原告会社の架空名義預金であつて原告の帳簿外資産であることが判明した。

(二) 原告は、法人税法(以下単に法という)第二五条第一項による青色申告法人としての承認を受けていたものであるが、右の様な事実が判明し、原告会社の帳簿書類にはその記載事項の全体について、真実性を疑うに足りる不実の記載があると認められたので同署長は、昭和三五年一〇月三一日付をもつて、原告の第三期事業年度以降の各事業年度分について同法第二五条第八項により前記青色申告法人としての承認を取消した。而してこれについては現に奈良地方裁判所において係争中である。

(三) しかして、原告会社代表者及び谷口税理士においては、前記島村末治名義預金の内容については全く説明をせず、且つ原告会社の帳簿のみによつては、正確な所得金額を算定することができないので同署長は、法第三一条の四第二項による推計によつて原告の所得金額を第三期事業年度分については一二七二、二〇〇円、第四期事業年度分については、一、一一一、六〇〇円と認定して前記再更正決定並びに更正決定をした。

(四) 被告は、審査請求を受けたので大阪国税局協議団奈良支部の協議官において調査したところ、右事実に誤りなく、原告の所得金額を推計することは正当であるが、奈良税務署長の原処分には計算の一部に誤りがみられたので、第三期事業年度分については所得金額を九六一、三〇〇円、第四期事業年度分については同九五三、九〇〇円と訂正することに協議決定をし、被告は右協議を経た上、前記本件決定をなしたものである。

三、推計の根拠。

(一) 第三期事業年度所得金額。

(1)  売上金額原告の申告売上金額四、八二四、一〇一円に、(イ)前記原告の簿外預金である島村末治名義の普通預金中、この事業年度内の入金額のうち、売上除外と認められる金額三、五九四、〇〇〇円及び、(ロ)木皮挽粉売上金額五六、八五〇円を加算した金額八、四七四、九五一円がこの事業年度分売上金額である。

而して、右売上除外金額を三、五九四、〇〇〇円としたのは、この事業年度中、右簿外預金に入金されている三、七五四、七三八円のうち、売上除外と認められない金額、即ち、<1>右預金に対する利息、昭和三二年八月二六日付九、三二〇円及び昭和三三年二月二四日付一七、〇二八円、<2>原告会社名義の普通預金から引出して右簿外預金に入金されたと認められる昭和三二年一一月一日五〇、〇〇〇円及び昭和三三年五月二日五〇、〇〇〇円、<3>原告会社の正規の帳簿の売上勘定に計上された売上代金を右簿外預金に入金したと認められる昭和三二年一二月三一日の入金一六、五〇〇円、五、八一〇円、一、二八〇円の三口の二三、五九〇円並びに<4>売上除外と認定すべきところを誤つて売上除外と認められない金額とした一〇、八〇〇円の各入金額の合計一六〇、七三八円を控除した三、五九四、〇〇〇円を売上除外としたためである。

(2)  営業利益金額

大阪国税局において作成した法人の効率手引によると、原告に適用さるべき営業利益率は一一・四%である。この効率手引は、大阪国税局管内の法人で自昭和三二年七月至昭和三三年一月末日間終了事業年度分について各税務署における法人税調査実績のうち、営業の実績を完全に把握したと認められるものを大阪国税局において収集し業種別に分類し、更に業況中庸のものを抽出して作成したもので、法第三一条の四第二項の推計をする場合の合理的な資料となり得るものである。

右営業利益率を原告会社の売上金額八、四七四、九五一円に適用すると営業利益金額は九六六、一四四円となる。

(算式) 8,474,951×0.114 = 966,144円

(3)  賃挽収益金額

原告のこの事業年度における賃挽収入金額は一三九、〇二三円である。賃挽による利益率は一五%であるから

これによつて計算すれば、賃挽収益金額は二〇、八五三

円となる。

(算式) 139,023円×0.15 = 20,853円

(4)  営業収益金額

右(2) 営業利益金額九六六、一四四円に(3) 賃挽収益金額二〇、八五三円を加えた九八六、九九七円が営業収益金額である。

(5)  営業外収益

これは別表記載のとおり合計三一、二五九円となる。

(6)  営業外損失

これは別紙記載のとおり合計五三、〇六〇円となる。

(7)  所得金額右(4) の営業収益金額九八六、九九七円に、(5) の営業外収益三一、二五九円を加え、(6) の営業外損失五三、〇六〇円を減じた九六五、一九六円がこの事業年度の原告の所得である。

(二) 第四期事業年度所得金額

(1)  売上金額原告の申告売上金額八、四七四、一四〇円に、(イ)前記原告の簿外預金中、この事業年度内の入金額のうち、売上除外と認められる金額六、九三五、〇〇〇円及び、(ロ)木皮挽粉売上金額九三、七五〇円を加算した金額一五、五〇二、八九〇円がこの事業年度分売上金額である。

而して、右売上除外金額を六、九三五、〇〇〇円としたのは、この事粟年度中、右簿外預金に入金されている九、〇三〇、一七二円のうち、売上除外と認められない金額、耶ち、<1>右預金に対する利息、昭和三三年八月二五日付二〇、三四九円及び昭和三四年二月二三日付二一、九二三円、<2>原告会社名義の普通預金から引出して右簿外預金に入金したと認められる昭和三三年八月八日一〇〇、〇〇〇円、同年九月五日八〇、〇〇〇円、同年一一月一日七〇、〇〇〇円昭和三四年四月二日五〇〇、〇〇〇円、同日五〇〇、〇〇〇円並びに<3>通知預金から振替え入金されたと認められる昭和三三年一二月六日八〇二、九〇〇円の各入金額の合計二、〇九五、一七二円を控除した六、九三五、〇〇〇円を売上除外としたためである。

(2)  営業利益金額

前記大阪国税局作成の効率手引によると原告会社に適用さるべき営業利率は一一・四%であるから、これを右売上金額一五、五〇二、八九〇円に適用すると営業利益金額は一、七六七、三二九円となる。

(算式) 15,502,890円×0.114 = 1,767,329円

(3)  賃挽収益金額

原告のこの事業年度における賃挽収入金額は一一七、八九〇円である。その利益率は前同様一五%であるからこれによつて計算すれば賃挽収益金額は一七、六八三円となる。

(算式) 117,890円×0.15 = 17,683円

(4)  営業収益金額

右(2) 働営業利益金額一、七六七、三二九円に(3) 賃挽収益金額一七、六八三円を加えた一、七八五、〇一二円が営業、収益金額である。

(5)  営業外収益

これは別表記載のとおり合計四五、九七三円となる。

(6)  営業外損失

これは別哀記載のとおり合計二一三、九九六円となる

る。

(7)  所得金額

右(4) の営業収益金額一、七八五、〇一二円に、(5) の営業外収益四五、九七三円を加え、(6) の営業外損失一三二、九九六円を減じた一、六九七、九八九円がこの事業年度の原告の所得である。

四、税額の計算根拠等

右のとおり原告の所得は第三期事業年度において九六五、一九六円、第四期事業年度において、一六九七、九八九円に達するから、その範囲内において第三期事業年度の所得金額を九六一、三〇〇円、第四期事業年度の所得金額を九五三、九〇〇円と認定した被告の審査決定は適法である。而して、この認定所得額に基き決定した法人税額及び加算税額の計算根拠は次のとおりである。

(一) 第三期事業年度分について

(1)  法人税額

所得金額九六一、三〇〇円(但し国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律、(以下端数計算法という)第五条により百円末満切捨て)に法(昭和三四年法律一九八号による改正前のもの)第一七条第一項第一号の税率百分の三三を乗じた金三一七、二二〇円(但し、拾円未満は端数計算法第六条により切捨て)がこの事業年度の法人税額である。

(二) 第四期事業年度分について

(1)  法人税額

前期分同様所得金額九五三、九〇〇円(端数計算法により百円未満切捨て)に百分の三三を乗じた金三一四、七八〇円(但し拾円未満は同法第六条により切捨て)がこの事業年度の法人税額である。

(2)  重加算税額

(イ) 追徴税額三〇九、六〇〇円(法第三三条第一項の追徴税額)

これは、更生後の所得金額九五三、九五〇円に対する法人税額三一四、七八〇円から確定申告法人税額五、一八〇円を控除した金額である。

(ロ)重加算税対象所得金額九三〇、一七二円(法四三条の二第一項による重加算税額の計算の基礎となるべき追徴税額に対応する所得金額)

これは、本件前記簿外預金の昭和三四年七月三一日(期末)現在残高二、三三四、九一〇円から昭和三三年七月三一日(前期末)現在残高一、四〇四、七三八円を控除した金額である。

(ハ) 重加算税額を課さない部分に相当する追徴税額二、六四〇円(法第四三条の二第一項による法第三三条第一項の追徴税額から控除する金額)

これは、更生による所得金額九五三、九五〇円から前記(ロ)の重加算税対象所得金額九三〇、一七二円を控除した金額(隠べい又は仮装されていない事実のみに基づいて計算した場合の所得金額)二三、七〇〇円(端数計法第五条により百円未満切捨て)に、税率百分の三三を乗じた金額七、八二〇円(同法六条により拾円未満切捨て)から確定申告税額五、一八〇円を控除したもの(法人税法施行規則第三七条第一項)である。

(ニ) 重加算税対象追徴税額三〇六、〇〇〇円(法第四三条の二第一項による重加算税計算の基礎となる追徴税額)

これは前記(イ)の追徴税額三〇九、六〇〇円から(ハ)の重加算税を課さない部分に相当する追徴税額二、六四〇円を控除した金額(但し法四三条の二第四項により千円未満切捨て)である。

(ホ) 重加算税額一五三、〇〇〇円

法第四三条の二第一項により右(ニ)の重加算税対象追徴税額三〇六、〇〇〇円に百分の五〇を乗じた金額が原告に課せられるべき重加算税額である。

なお、前記(ハ)の重加税額を課さない部分に相当する追徴税額二、六四〇円の計算の基礎となつた事実のうち、その更正前の税額の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な事由があると認められるものはないので、法四三条第一項により右追徴税額の百分の五相当額の過少申告加算税を徴収すべきであるが、僅少のため決定しなかつたものである。

(右に対する原告の反駁)

一、被告の主張二の事実はいずれも争う。とくに、南都銀行南支店の島村末治名義の普通預金については原告は全く不知である。

二、被告の推定計算について

被告のこの主張中、原告の申告売上金額は認めるが右売上金額に右預金の入金額を加算する部分は、右預金が原告と何らの関係もないものであるから承服できない。また、営業利益率及び賃挽収益率はいずれも争う(賃挽収入金額は認める)。即ち、営業利益率に関しては、素材から製品を生産しても利益は常に一定せず、時には損失を伴う場合も多く、材木業者の合言葉である「原木高製品安」の上に同業者との競争もあり段々利益率は低下の傾向あり一一・四%は不当である。また、賃挽収益率に関しては、挽賃は労働賃金であつて、工賃及び給料その他の経費を差引き利益は生れて来ない。

被告のその余の主張(営業外収支)は、前記預金の利息を収益に加算している部分を除きすべて認める。そうすると、原告の本件事業年度の収支はさきにも主張したとおり、別表記載のとおりであつて、第三期事業年度において欠損五二、二一五円、第四期事業年度において一五、七七七円である。そもそも、本件決定は、前記島村末治名義預金による莫大な入金額を原告の簿外預金と計算してのことであるが、原告会社は昭和三〇年八月設立し、本格的に事業を始めたのは昭和三一年からである。被告の主張によれば、第三期に売上八百万円、第四期に千五百万円と創業間近に倍増を重ねたこととなる。原告会社は従業員二人で代表者も従業員と共に労務に服している小会社である。かかる会社で創業期に他の業者とのの競争をしながらかかる業績を伸張させることは不可能であり、これによつても被告の右預金を原告の簿外預金とする認窟及びこれに基く所得の計算の不当なことが明らかである。

第三、証拠関係<省略>

理由

請求原因一乃至三の事実は、当事者間に争ない。

まず、被告は、奈良税務署長の調査の結果、原告の帳簿記帳並びにその保管が完全でなく、且つ簿外預金の存在することによつて、原告の記帳は実態を反映しないものであるので、再更正並びに更正決定をした同署長の処分は適法であり、これを維持した本件決定も適法であると主張し、原告はこれらの点を争うので判断する。

(一)  帳簿作成上の正確性について

成立に争のない乙第六号証、同第九号証の一乃至三と証人竹村幸太郎の証言並びに原告代表者本人尋問の結果の一部とを綜合すると、係争事業年度の頃は、原告会社では帳簿の記帳を訴外谷口税理士に委せていて、数日又は十数日に一回位原始記録にあたるものを同人に引渡して記帳して貰つていたものであつたところ、訴外竹村幸太郎が奈良税務署長の命に依り調査に赴いた際にも金銭出納簿に日々の記帳がなされてなく現金照合ができなかつたこと、その調査の結果仕入関係及び一般経費関係の証拠書類の保管が不充分で、とくに仕入関係の領収書等について架空と考えられるものなど説明のつかないものが存し、それらについて訴外谷口税理士及び原告代表者から何ら納得のいく説明がなされなかつたことが認められ、原告代表者本人尋問の結果中これらに反する部分はにわかに措信し難く他に右認定を覆えすに足る証拠はない。また、前記乙第九号証の三によると金銭山山納帳に赤字(マイナス)の記帳がなされているが、現金の出入を記帳すべき金銭出納簿の性格上かかることは本来あり得ないことであり、これにつき原告代表者本人尋問の結果においても納得のいく説明が得られなかつたものである。以上の諸点を併せ考えると、原告会社の帳簿が正規の記帳処理が履まれていて企業の実態を正確に反映するところのものとは到底保証し難いところといわねばならない。

(二)  簿外預金の存否について。

原本の存在とその成立ならびに写であることにつき争のない乙第二号証の三と証人仲村正明の証言によると、昭和三二年四月一六日南都銀行南支店に島村末治名義の普通預金口座(以下本件預金口座という)が開設されていることが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はなく、被告はこれが、原告の簿外預金であるというのである。そこで判断するに、

(1)  成立に争のない乙第一号証の一、二に原本の存在とその成立並びにその写であることにつき争のない乙第二号証の一乃至三、同第三号証の二、成立に争のない乙第三号証の一、三と同第五号証に証人竹村幸太郎、同仲村正明の証言とを綜合すると、右本件預金口座についての昭和三四年一一月一一日付一〇〇、〇〇〇円の普通預金払戻請求書の請求者欄に「島村末治」と記載された後へ一旦「上島」の印が押捺してあつてこれを朱筆で抹消して「島村」という印が押捺されてあること、右「上島」の印は従来、原告が同行との普通預金取引に使用していた印鑑の印彰と同一であること、同日、原告は同行に当座預金勘定を開設しているが、その開設資金は右請求書によつて本件預金口座から払戻された一〇〇、〇〇〇円をもつて充当したものであることが、また、

(2)  証人竹村幸太郎の証言によると、本件預金口座の入金中他店券の入帳分につきその小切手の振出人を反面調査したところ、その中に原告へ材木代金として支払つたものの存することが判明したことが、また、

(3)  前記乙第一号証の一、二によると、本件預金口座への入金は月末から月始にかけて集中的になされているところ、原告代表者本人尋問の結果によると、本件係争事業年度の頃における原告の集金は月末から月始であること、他方証人竹村幸太郁の証言によると、原告においては取引先に対しなるべく銀行渡の小切手でなく、持参人払の小切手にして貰い度いと依頼していた事実の存すること、そうだとすると右小切手を現金化して本件預金口座へ入金していたことも考えられること、また、

(4)  前記乙第一号証の二、成立に争のない乙第七号証の一乃至三、同第八号証の一、原本の存在とその成立並びにその写であることにつき争のない同第八号証の二、三と原告代表者本人尋問の結果の一部とを綜合すると、原告の金銭出納帳には、昭和三三年七月一日付で同年五月二日に南都銀行南支店から借入れた一、一〇〇、〇〇〇円を返済(現金で支出)した様に記帳されているが、右は現実には同年六月三〇日に銀行へ振込まれたものであるが午後三時以後であつたため〆後扱として翌日付にされたものであるところ、本件預金口座から同年六月三〇日に金一、一〇〇、〇〇〇円の払出がなされていること。

がそれぞれ認められ、原告代表者本人尋問の結果中これらに反する部分はにわかに借信し難く他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そして、これらの点を綜合すると本件預金口座は明らかに原告の簿外預金であつて、主として簿外売上金が入金せられているものと認めるを相当と考える。

以上、(一)(二)の点を綜合考察すると、原告の記帳はとうてい企業の実態を正確に反映したものとは、認められないので、これによつてなされた原告の確定申告につきこれを再更正又は更正決定をすることは適法であり、この点においては奈良税務署長の原処分を維持した被告の本件決定に違法はない。

次に被告は本件更正又は再更正決定においては法第三一条の四第二項による推計の方法を用いることが適法な場合であると主張する。

原告がかねて所謂青色申告法人であつたことは被告の自認するところであるが、被告は奈良税務署長においては昭和三五年一〇月三一日付をもつて原告の第三期事業年度以降の各事業年度分について法第二五条八項により青色申告承認の取消処分をし、これについて現に奈良地方裁判所でその取消処分の当否につき係争中であると主張し、この点は原告においても明らかに争わず、且つ本件記録に徴しても明かなところである。されば、右青色申告書提出の承認が一旦取り消されている以上、之が係争中であつても、その取消処分が取り消されない限り、法第二五条第八項、第三一条の四第一、二項の解釈上青色申告法人でない法人として同第二項により推計の方法を用いて更正又は再更正の決定をすることは適法と考えるので、この点についての被告の主張は理由がある。そこで済んで、本件が具体的に推計の方法によるに適した場合であるか及び本件で被告の採用した推計方法の当否につき判断する。

まず、原告の帳簿記帳が、前記の様に企業の実態を正確に反映し得ないものである以上、推計の方法を採用することは適法というべきである。そこで具体的に被告の用いた推計の方法につき争のある点は、

(1)  売上高に前記本件預金口座の入金額中売上除外と認められるものを加算することの当否。

(2)  営業収益の算定に効率手引を適用して売上金額の一一・四%を営業収益とすることの適否。

(3)  賃挽収益率を一五%とすることの適否。

(4)  営業外収益中受取利息の金額。

である。以下これに従つて順次判断する。

右(1) は前記認定のとおり本件預金口座は原告の簿外預金であり且つ主として簿外売上金が入金せられているものと認められるので、これらの入金額のうち被告の主張する限度の金額(第三期事業年度においては、前記乙第一号証の二により認められる入金額三、七五四、七三八円から被告主張の利息二六、三四八円と、原告名簿普通預金から引出して本件預金口座へ入金したと認められる一〇〇、〇〇〇円、原告の正規の売上勘定に計上されたと認める二三、五九〇円、他一〇、八〇〇円の合計一六〇、七三八円を控除した三、五九四、〇〇〇円、第四期事業年度分については前記乙第一号証の二により認められる入金額九、〇三〇、一七二円から被告主張の利息四二、二七二円、原告名義普通預金から引出して本件預金口座に入金したと認められる一、二五〇、〇〇〇円並びに通知預金から振替入金された八〇二、九〇〇円の合計二、〇九五、一七二円を控除した六、九三五、〇〇〇円)を売上除外として原告の申告売上額(当事者間に争がない)に加算することは、前記更正及び再更正決定を推計の方法によつてすることが許容される本件の場合相当であるというべきである。右の如く売上除外でないとして入金額から控除すべき金額が、被告の主張する金額以上に及ぶことについて原告は何らの反証をも挙げないので、被告の主張する以上の金額を控除することはできない。よつて、原告の売上金額(木皮挽粉売上金及び賃挽収入金額を除く)を第三期事業年度において、八、四一八、一〇一円、第四期事業年度において、一五、四〇九、一四〇円とする被告の主張は理由がある。

次に前記(2) の点であるが、本件は一般的に法第三一条の四第二項の推計方法が許容される場合であるから、当該法人の事業規模と比較して類似の法人の営業利益率を適用することも一つの方法として相当であるとはいえるが、証人森下芳一の証言によると、成立に争のない乙第四号証の一、二の効率手引なるものは、大阪国税局管内八四税務署に各署管内の多数業者の存する業績について(本件製材業については奈良、和歌山など)過去の申告が誠実であつて、事態の把握ができ大体中庸と考えられる法人を対象としてその営業内容、販売先の種別営業規模、(従業員数等)、収人、利益率等を五乃至一〇法人宛提出させ、同国税局においては、これらの資料中荒利益率、営業利益率が大体同じ位のもの五、六件を選出し、中庸と認められる法人を抽出された一法人の生の数値をそのまま採用しているものであつて、何ら統計的操作を加えて平均値を求めたものではないことが認められるから、これを推計に用いるに当つては、効率手引に挙げられている法人(以下対比法人という)と更生等の決定をなすべき法人(以下当該法人という)とが営業場所売上区分、営業規模において類似しているものであることが必要であると考える。そこで、被告が本件につき対比法人として選択した前記乙第四号証の二に記載の法人(一番左欄に記載の分と認められる)と原告との類似性を吟味しなければならない。

原告代表者本人尋問の結果によると、本件係争事業年度の項、原告会社の従業員数は二乃至三人、製材機台数は二台、(但し年度の途中から)、販売先はほとんどが大工等土建業者であることが認められ、他にこれに反する証拠はない。そして前記簿外売上を加算し更に当事者間に争のない木皮挽粉売上金と、賃挽収入金とを加算した総売上金は、第三期事業年度において八、六一三、九七四円、第四期事業年度において一五、六二一、七八〇円となる。そして、前記乙第四号証の二によると対比法人とされている法人は従業員数六人、製材機台数二台、販売先は土建業者、売上一八、六四六、〇〇〇円であることが認められる。そうすると、右従業員数と売上金に比較するとき右対比法人とされた法人の方が原告よりやや優勢であり、営業地が原告が奈良市であるに対し対比法人とされた法人が和歌山である点が異る他両者は一応の類似性を持つというべきである。ところで、証人森本芳一の証言によると、奈良と和歌山とではほとんど同じ業態と考えられるというのであり、また右従業員数の差は前記乙第四号証の二に挙げられている他の法人のそれと比較するときこの業種の事業規模として著しい差異を来すものとはいい得ないと考える(とくに製材機台数が同数である点においても)。従つて右対比法人とされた法人と原告とは場所、営業規模において全く同一ということはできないが、比較的類似しているものというべく、そしてこの程度の差異は、本来真実の数値を把握する方法のない場合に用いられる推計の性格からいつて、法が推計課税を許容する際、当然に認容している誤差に含まれるものと考えるので、本件の場合他に原告につきこの対比法人とされた法人の営業利益率を修正して適用しなければならない特段の事情の存在しない限りこれによることは適法というべきである。ところで原告はこの点に関し、(イ)製材業は業者間の合言葉でもある「原木高製品安」の上に同業者との競争があつて利益率は低下の傾向にあり、(ロ)本件係争事業年度は原告の創業間もない時期でこの期間に業績を伸張させることは不可能であると主張するが、右(イ)の点はすでに業界一般の問題として対比法人の場合もそれらの諸要素が加わつて前記営業利益率が生じていると考えられるから、原告の場合の特段の事情として採用することはできず、(ロ)の点においては、創業間もないことは明かであるが、本件係争事業年度の原告の申告売上額においても第四期は第三期の倍に近い金額となつていることと、原告代表者本人尋問の結果認められる原告が昭和三四年三月に増資をしていることなどから、原告の主張する他の業者一般に比較してとくに利益が薄かつたと認めるに足る証拠はないので、これらの点の原告の主張は採用できない。

されば、前記原告の売上高のうち一般売上高と木皮挽粉売上金との合計についてはまず右対比法人とされた法人の営業利益率一・四%を適用して第三期事業年度においては九六六、一四四円、第四期事業年度においては一、七六七、三二九円をその営業収益とする被告の主張は理由がある。

次に前記(3) の点については、賃挽収益率を右一般営業収益率よ高率の一五%としなければならない合理的な理由についての具体的証拠はない。証人森下芳一のこの点の証言は単に同人の多年の勘に頼るのみであつてにわかに採用し難い。従つてこの点においてはこれを一五%とする被告の主張は失当であり、一応計数上の根拠のある前記一般営業利益率並の一一・四%の限度に算定すべきものと考える。なお、原告は賃挽加工においては収益を生じないというが、これもにわかに採用し難い。そうすると、賃挽による収益は第三期事業年度においては当事者間に争ない賃挽収入金額一三九、〇二三円の一一・四%である一五、八四八円、第四期事業年度においては同じく当事者間に争のない賃挽収入金額一一七、八九〇円の一一・四%である一三、四三九円と認定すべきである。次に前記(4) の点は、当事者の主張額の差は第三期事業年度においては二六、三四八円、第四期事業年度においては四五、一七二円であるが、前記乙第一号証の二によると、右第三期事業年度の差額相当額と、第四期事業年度分の差額分中四二、二七二円は前記本件預金口座の利息に相当する金額であり、これを原告の簿外預金と認定する以上、右利息も原告に帰属すべき受取利息と認定すべきものである。よつて、原告の受取利息を第三期事業年度において二六、八七九円とする被告の主張は理由があるが、第四期事業年度においては四三、〇七三円(乙第一号証の二の利息四二、二七二円と乙第一号証ノ二以外で原告の自認する利息八〇一円との合計額)の限度においては理由があるが、これを四五、九七三円と認定し得る証拠はない。

以上の次第であるから、被告の主張は、原告の所得額を第三期事業年度分においては、前記賃挽収益金において修正さるべきことによる五、〇〇五円の差を総純益九六五、一九六円から差引いた九六〇、一九一円

(966,144円+15,848円+31,259円-53,060円 = 960,191円)

とする限度において理由があり、その余は理由なく第四期事業年度においては、同じく賃挽収益金において修正さるべきことによる差額四、二四四円と右受取利息の不足分二、九〇〇円の合計七、一四四円を差引いた一、六九〇、八四五円

(1,767,329円+13,439円+43,073-132,996円 = 1,690,845円)

の限度において理由があり、その余は理由がない。(以上、被告主張額と当裁判所の認定額との異るところを別表に朱書をもつて表示した。)

そこで、被告の決定の適否につき判断する。

第三期事業年度分について。

被告の所得額の決定は九六一、三〇〇〇円であるから右九六〇、一九一円を一、一〇九円超過しているものであり、これが、法人税額に影響を及ぼしているかどうかを判断するに、被告の主張する法人税額算出の法令適用上の主張(被告の主張中四、税額の根拠等の項は理由があるのでこれを採用し、これによつて計算すると、

法人税額は、三一六、八三〇円

(算式) 960,100円×0.33 = 316,833(円位切捨)

となるから、これを超える被告の決定はその限度で取消を免れないものというべきである。

第四期事業年度分について。

被告の所得額の決定は九五三、九〇〇円であるから、前記所得金額の算定につき一部理由のないところがあるにしても当裁判所の認定する原告の所得額も一、六九〇、八四五円であり、被告の決定所得額はその範囲内に止つているから結局適法でありこれが、取消を求めることはできない。そして、右所得額を九五三、九〇〇円とする法人税額算定の主張の理由のあること前記分と同様であるから、これを三一四、七八〇円とする被告の決定は適法である。次に重加算税額一五三、〇〇〇円とする主張は、その計算上の根拠についての主張は前同様理由があつて採用すべきものと考えるので、原告に重加算税を課し得べき場合であるかどうかにつき判断する。重加算税の課税要件は法人が課税標準若しくは欠損金額又は法人税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基いて確定申告等をしていた場合である(法第四三条の二第一項)ところ、前記認定のとおり、原告は本件預金口座を簿外預金として保有し、これに基く収益は申告上に現わしていなかつたことが明らかであるから、右要件に該当し、重加算税を課し得べき場合である。よつて、この点についての被告の決定(税額一五三、〇〇〇円とする点を含めて)は適法である。

よつて、原告の第三期事業年度分についての決定の取消を求める請求は一部理由があつて認容すべきであるがその余は棄却し、(なお、原告の訴状の請求の趣旨の記載には、この年度分について、被告が過少申告加算税額一五、八五〇円の決定をし、これが取消をも求める趣旨の記載があるが、成立に争のない甲第八号証によれば被告はこの年度について過少申告加算税額の決定をしていないことが明かであり、且つ原告も右過少申告加算税の徴収決定が訴外奈良税務署長の処分であることを自認している(第一〇回口頭弁論期日)ので右訴状の記載は、右過少申告加算税の徴収決定を被告の処分と見誤つたことによる明白な誤記と認められる。よつて、当裁判所は原告は本訴においては被告に対してはこれが取消を求めていないものと判断し、この部分に対する判断はこれをなさない。)第四期事業年度分についての決定の取消を求める請求は全部棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 潮久郎 安井正弘)

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